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福岡高等裁判所 昭和51年(ラ)55号 決定 1977年3月29日

抗告人 岩田満男(仮名)

相手方 下山節子(仮名)

事件本人 下山弘一(仮名)

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  本件抗告の趣旨は、「原審判を取消す。本件審判の申立を却下する。」というのであり、その理由は別紙<省略>のとおりである。

二  抗告理由第一について

所論は、民法七六六条一項は、父母の協議が調わないときは家庭裁判所が子の監護者の指定・変更をなすこととし、それに付随して父または母に対して子を監護者に引渡すべきこと等の「監護に関する処分」をもなしうることとしたものであり、子の引渡に関する事件を独立して「子の監護に関する処分」として家事審判事項としたものと解すべきでなく、親権または監護権にもとづく子の引渡の請求は民事訴訟事項であつて、本件は親権者で母である相手方が認知した父である抗告人に対し親権にもとづいて事件本人の引渡を求めているものであるから、家事審判事項ではなく民事訴訟事項である旨主張する。

しかしながら、親権者または監護者が親権者または監護者でない親に対し子の引渡を求めることは、子の監護者の指定・変更を伴わない場合であつても、家庭裁判所においてその裁量的・合目的的判断にもとづく後見的機能により積極的に子の福祉について十分な考慮を払うことが望ましいことを考えると、民法七八八条、七六六条、家事審判法九条一項乙類四号、家事審判規則五三条、六一条の規定によつても、子の引渡が監護者の指定変更の付随の処分としてしかできないと解することはできず子の監護費用の分担や子との面接交渉と同様に、独立して子の監護に関する処分として家事審判事項となりうるものと解するのが相当である。

本件記録によれば、

(一)  抗告人は、昭和四四年夏頃から相手方と同棲し、同四七年五月二六日相手方との間に事件本人が生れるにいたつたが、同四八年五月三〇日頃事件外下山チエ子と駈落ちした。そして、抗告人はその出奔中である同年七月五日事件本人を認知した。

(二)  そこで、相手方は、抗告人の行方を探し、同年八月末頃抗告人と連絡がとれたので、事件本人をどちらが監護するか抗告人と数回にわたつて協議したが、抗告人は協議が調わないうちに事件本人を預ると称して連れ去り、以後相手方に対し事件本人の引渡を拒否している。

(三)  相手方は、抗告人が事件本人を連れ去つて間もない同年一一月一三日原審裁判所に事件本人の引渡の調停を申立て、調停不調のため原審判がなされた。

以上の事実が認められる。

右認定の事実によれば、本件は親権者で母である相手方において父である抗告人に対し民法七八八条によつて準用される同法七六六条一項の規定に基づき子の監護に関する処分として子の引渡を求めているものというべきであり、家事審判法九条一項乙類四号に該当し、家事審判事項であるというべきである。

したがつて、抗告理由第一は失当である。

三  抗告理由第二について

所論は、事件本人を相手方に引渡すことを拒絶できる合理的事由がある旨主張するが、その具体的内容については何等明らかにしないだけでなく、本件記録を精査してみてもかかる事由を認めるに足る資料はない。したがつて、右主張も失当である。

四  他に記録を検討しても原決定を取消すべき違法はない。

よつて、本件抗告を棄却することとし、抗告費用はこれを抗告人に負担させることとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 矢頭直哉 裁判官 右田堯雄 日浦人司)

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